刊行物詳細

平成22年7月の新刊紹介

2010年07月30日

角川文化振興財団 編集・製作
news00000078.jpeg安岡みちこ句集 『筑紫野(ちくしの)

第一句集・「燁」同人

『筑紫野』は、しっかりと風土に根をおろし、そこで営まれる日々の生活の中から紡ぎ出された作品によって編まれている。
どの作品も実景の裏打ちがあり、充実した気力と、感覚を抑えた凝視の確かさが支えとなっている。安岡みちこさんは、柔軟な詩心と、豊かな情感に恵まれた人である。
さらなる高みへの飛躍が期待される。
 (山崎冨美子)


●山崎冨美子 選 十句
鰻掻く棹のみ動く芦の中
地を打ちてすぐる藺草や梅雨晴間
露むすぶ藺苗や朝日ちりばめつ
山霧に椿いきづく花御堂
恋螢橋裏に来て別れけり
商ひとたつきを隔つ障子貼る
鷽替の大渦闇に動き初む
武者幟晒す川波かぎろへる
買ひ替へて母に試しの初電話
恵方とて常なる道を勇みゆく


◆下村志津子句集 『可惜夜(あたらよ)

第一句集・「銀化」同人

みちをしへ
ふるさとだもの
わかつてる

下村の句は、やはり"情"というものを切り離してはあり得ない。
当然その情の発信先は故郷であり、家族、同胞(はらから)で、年々それは募って来ているように見受ける。
この句など、自分の生まれた土地だから絶対の自信があって、案内など不要と断わっているのだが、逆にふるさとを離れた長い歳月に、少々自信が揺らぎ出した"裏返し"の強がりと思ってしまう。
その本音"情"がちらと覗ける佳什である。
(中原 道夫)

●自選 十句
可惜夜(あたらよ)の鳴らして解く花衣
嫩草(わかくさ)やひかりの幅が川の幅
匠には非売のこけし栃の花
田水沸く死者も生者も化粧して
八ツ橋に釘の浮きたつ炎暑かな
稽(かんが)へてをれば匂ひをくれし桃
山荘や冬を妊る雨の音
夢寐(むび)にまで入りたがるよ雪明り
短日や火の色孕むかもめの眼
メトロにも青空の駅つばくらめ