呉座勇一
先の大戦への反省から、戦後の日本史学界では戦争を忌避する「反戦平和主義」が議論の前提となった。たとえば蒙古襲来ならば、「外交交渉によって戦争を回避することはできなかったのか」という形で問いを立てるのである。一方で、革命を熱望する階級闘争史観の影響により、南北朝内乱や応仁の乱といった戦乱は、新興勢力が既存の秩序を打ち破る「下剋上」として肯定的に評価されたのだ。
こうした戦争観の〝ねじれ〟をときほぐすことで、総括されぬまま店ざらしになっている戦後歴史学を捉え直す糸口がつかめるのではないか。それが執筆の動機だった。
私は駆け出しの研究者で、本書もいわば〝中間報告〟のつもりで上梓した。昨年『一揆の原理』が候補になっただけでも驚いたのに、まさか栄えある角川財団学芸賞を受賞できるとは思いもよらなかった。おそらく〝伸び代〟があるはずと期待(錯覚?)されたのだろう。「これから精進するように」という叱咤激励と解釈して、謹んで頂戴したい。
角川文化振興財団と選考委員の皆様に心より御礼申し上げる。