角川源義賞

第43回 受賞のことば・選評公開
  • 2022.01.12更新
    第43回 受賞のことば・選評公開
角川源義賞とは 受賞者一覧

受賞のことば・選評

第10回角川源義賞 国史学受賞
『寝殿造の研究』(吉川弘文館刊)
太田静六
【受賞者略歴】
太田静六(おおた せいろく)
1911年、東京市生まれ。早稲田大学理工学部建築科卒業。東京帝室博物館(現・東京国立博物館)研究員、九州大学工学部教授、早稲田大学文学部客員教授を経て、九州大学名誉教授。工学博士。1954年、「寝殿造の研究」にて建築学会賞受賞。著書に、『日本の古建築』(宝雲舎)、『ペルセポリス――古代ペルシャ帝国の首都』(相模書房)、『眼鏡橋――日本と西洋の古橋』(理工図書)など。

受賞のことば

太田静六

 思いがけない受賞に恐縮し、感謝しております。ところで華々しく展開された平安文化は寝殿造を基盤として行われたにも拘わらず、寝殿造の実体は全く解明されていないのが実状であった。そこで私は道長や頼通、東三条殿や平清盛の六波羅殿など、実在の離宮や邸宅についての検討を試みた。その結果、寝殿造の実体や用法などが解ると共に、一口に寝殿造と言っても時代と共に大きく変形することが解明された他、書院造は武家造から生じたとする従来説は誤まりで、武家造などは実存せず、書院造もまた寝殿造の直系であることや、床ノ間の源流なども従来説の誤まりであることが実証された。

選評

『寝殿造の研究』竹内理三

 『寝殿造』は、平安貴族の日常の生活の場、儀式典礼の場として用いられた建造物である。従ってそこに営まれる貴族の生活は、公私にわたり、貴族文化の展開の場となり、日本文化の醸成の舞台となった。多くの文学作品、数々の日本文化を理解する上に重要なことは、改めて申すまでもない。しかし戦前、学界は、政治史、経済史の表面的現象の解明に傾倒し、これらの歴史展開の場となるものへの関心はうすく、寝殿造の研究も、極く少数の建築史家によって手がけられるにすぎなかった。本書は、その数少い建築史家の一員として、昭和十年代から今日に至る半世紀にもわたって、一貫してこの問題にとり組んで、本書を成した。寝殿造は今日、同じ古代に成立した建造物でありながら、神社や寺院と異って、現物の遺存するものがない。その研究は、全く記録中の記事や記録中に見える部分的な指図や、平安鎌倉期の絵画などによらねばならない。著者は、これらから、綿密に関係史料を蒐集して、よくこの建造物の立体的復原に成功し、その起源が、中国の宮殿含元殿にあり、それが自由を愛する日本人によって、池泉の自然をとりこんだ日本独特の展開を示したものであり、更に通説となっている武家造の存在を否定し、中世の書院造の中核となる床・棚・書院・広縁が寝殿造に源流をもつことを解明するなど、多くの新知見がみられることも、見逃すことが出来ない。


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