平川 南
漆紙文書は役所の廃棄文書を漆液のふた紙として用いたために漆の力によって地下に遺存したものです。本書では新しい出土資料としての漆紙文書について総合的に検討を行い、その資料的価値を検証するとともにその研究方法の確立を目ざしました。この研究は各地の発掘調査担当者との交流から生まれた成果であり、本書が文献史学と考古学両分野の新たな学際的研究の礎となることを願いつつ、このような現場の仕事が高く評価されたことを大変うれしく思います。
『漆紙文書の研究』平野邦雄
古代の遺跡から発掘される木簡(もくかん)とともに、漆液をいれた土器や曲物(まげもの)の“ふた紙”として使用されたため腐らないで残った古文書という重要な史料がある。本書は、東北の多賀城、胆沢城、秋田城や茨城の鹿(か)の子遺跡等々から出土した漆紙文書の断片を復原し、その文字の解読をすすめるとともに、背景となる遺跡と出土状況をくわしく観察し、文書の年代との関連を追求し、文書が反故(ほご)紙として使用されるまでの過程を分析するなど、一つ一つの作業を正確に進めることによって、文書の内容と意味を確定している。またこれらを現存する正倉院文書とひろく比較することによって、これまで知られなかった地方文書の形体をほうふつと浮び上らせるとともに、東北・関東の民政、軍事、文化の未知の分野についてのいくつもの重大な新事実を導き出している。
著者の研究が何にもまして高く評価される所以である。