鈴木日出男
古代の和歌では、人々が表現の型に即すことによって、自己を表現していたとみられます。そのことから、私はこれまで、社会と個人を二重につなぎとめている言葉の緊張的な機構にわけいって、表現の歴史性をとらえようとしてきました。このように言葉と歴史を関連づける私の立場で、このたびの受賞ができましたのを、たいそううれしく思うのですが、他方では私の方法の論理的な危うさなどが今まで以上に不安になってもきます。これを機に、いっそうの精進を重ねるほかないと、思いを新たにしています。
『古代和歌史論』目崎徳衛
著者は、古代和歌の表現における、集団的・社会的な類型と、個の心情表出との緊張関係に視点を定め、この独自の視点を貫きつつ、古代和歌史を動態的に構築しようとされた。そして『万葉集』『古今集』から平安時代半ばごろまでに亘って、歌人・歌語・歌風等の全般に検討を加え、さらに漢詩・歌謡・物語における和歌的なものにも広く言及して、序より第五篇まで全四七章、九○○頁の大著を完成された。その新鮮な問題意識、雄大な体系、および暢達な文章は、あまねく学界の賞讃を博した所で、本賞の対象にふさわしい卓抜な業績といえよう。