角川源義賞

第43回 受賞のことば・選評公開
  • 2022.01.12更新
    第43回 受賞のことば・選評公開
角川源義賞とは 受賞者一覧

受賞のことば・選評

第19回角川源義賞【国史学部門】受賞
『戦国時代論』(岩波書店刊)
勝俣鎮夫
【受賞者略歴】
勝俣鎮夫(かつまた しずお)
1934年、東京都生まれ。東京大学文学部国史学科卒業。岐阜大学教育学部助教授、東京大学教養学部助教授・教授を歴任。神奈川大学短期大学部特任教授。東京大学名誉教授。著書に、『戦国法成立史論』(東京大学出版会)、『一揆』(岩波書店)など。

受賞のことば

勝俣鎮夫

 一昨年、待ちに待った停年を迎え、それを機に店仕舞いのつもりで既発表論文や一般読者を対象にした読物などをまとめ出版しました。その書が受賞ということになり、大変光栄に思うと同時に多少のとまどいを感じました。受賞のお知らせをいただいた時の心境は、おそらく梅の老木が、その朽ちかけた幹の穴に、美しい大輪のバラの花を差してもらったとき感ずるようなものでした。そして、現在私は、はげましの意味で差された花の許から、若芽をだし、小さな梅の一輪の花を咲かせる努力をしようかどうか思案にくれております。いずれにせよ、多くの諸先学・出版社など関係者の方々に心から御礼申し上げます。

選評

戦国時代論尾藤正英

 戦国時代は、日本史上の中世と近世との接点に位置し、これを中世の終末期と見るか、それとも近世の出発点と見るかについて、研究者の間で意見が分れている。この対立は、中世と近世という二つの時代それぞれの性格を、どのように考えるか、という問題とも関連して、日本史の理解の上で重要な意味をもつ。勝俣氏の研究は、この分野で既に周知されている史料を、精密に読解する作業を基礎としつつ、時間的に広い展望の中に歴史事象を位置づけることにより、戦国時代の研究に新生面を開いたものと評価することができる。戦国の動乱を収束した豊臣政権下での「人掃い」令に関して、人改め、すなわち家数と人数の調査が、全国的規模で企図されていたとし、その背景に統一国家の構想を見るとともに、古代の戸籍制度との関連までを視野に入れているのは、その一例である。その統一国家の原型が、戦国大名の領国において形成されていたことを、著者は前作『戦国法成立史論』での甲斐武田氏領の検地に関する分析などに基き、軍役衆(兵)と百姓(農)とを分離するとともに、大名が両者を一元的に統合していた事実によって論証する。さらにそのような兵農分離の体制の成立を必然化した要因として、中世末期に年貢・公事の村請制の主体となった村や町の自治組織の成立に注目する。これにより中世から近世への移行を、断絶や飛躍としてではなく、連続的な発展として理解するための道が開かれたと考えられる。また右の移行を、聖と俗との結合から分離への過程とみる社会史的な視点から、商業や交通などの問題が考察されていることも、本書の大きな特色である。


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