角川源義賞

第43回 受賞のことば・選評公開
  • 2022.01.12更新
    第43回 受賞のことば・選評公開
角川源義賞とは 受賞者一覧

受賞のことば・選評

第20回角川源義賞【国史学部門】受賞
『古代荘園史料の基礎的研究』[上・下](塙書房刊)
石上英一
【受賞者略歴】
石上英一(いしがみ えいいち)
1946年、埼玉県生まれ。東京大学文学部国史学科卒業。同大学院人文科学研究科博士課程中退。東京大学史料編纂所助手・助教授を経て、同教授。博士(文学)。著書に、『日本古代史料学』(東京大学出版会)、『律令国家と社会構造』(名著刊行会)。共編著に、『新版 古代の日本10 古代資料研究の方法』(角川書店)。

受賞のことば

石上英一

 史料編纂所に勤めて『大日本史料』第一編、『正倉院文書目録』を担当し、『日本荘園絵図聚影』の事業にも参加してきました。そして、史料の調査・研究・編纂を行う職業の研究者として、史料や荘園図の観察・分析、情報化、あるいは史料の要素・構成を、史料学という枠組で考えてきました。また、荘園図が描き荘園文書が記録した景観の失われゆく様を前に、史料から実体への遡及についても模索してきました。このような研究の中から生まれた古代荘園の基礎作業を評価していただき、角川源義賞を授与して下さいましたことに深く感謝いたします。調査させていただいた荘園図や文書の御所蔵者、また共に調査・研究した研究所の先輩・同僚、高松市や静岡県の教育委員会や地域の方々、地理学や考古学の友人にも、喜びを共にしていただけることと存じます。最後に、本書を出版して下さった塙書房に御礼申し上げます。

選評

古代荘園史料の基礎的研究上・下 平野邦雄

 古代から中世にいたる寺院を主とする厖大な荘園史料群を、本来の時間的・空間的層位に再構成するための史料操作の方法を示した力篇である。その史料群の中核に、荘園絵図を据えたところに本書の最大の特色がある。
 しかも、東大寺はさしおいて、西大寺の京北班田図、弘福寺の讃岐国山田郡田図、額田寺の伽藍並条里図などを取り上げる。荘園とは、班田制に先行する七世紀の大土地所有にはじまり、八、九世紀の班田・開田図、十二、三世紀の四至牓示・下地中分・堺相論・所領相博図にいたるまで一貫したものと捉えれば、これらを、〝荘園図〟と一括して称した方がよいと主張する。
 実際にも、京北班田図は、八、九世紀の班田図を下敷きとするが、西大寺が興福寺の支配下に入って寺勢を回復した十一世紀以降に、秋篠寺との相論のもとで、敷地図、堺相論・相博図など多くの荘園図群を作成したとき、その一つとして十三世紀に作られたものである。また山田郡田図も、天平年間の最古の原本でなく、弘福寺が東寺の支配下に入ったのち、東寺文書中の弘福寺関係文書として、十一世紀以降に作成された写本である。したがって、これら図中の条里坪付、地名、地目、田畠面積、直米、作人などの各要素を一つ一つ読解するとともに、それらを古文書群の内容と照合することによって、長期にわたる寺領経営を遡及的に解明することが必要となる。その作業は細密であり、並大抵の努力ではない。加えて現地に足を運び、歴史的な官道と郡界、現在の地形と地理、考古学の遺跡との比定を行っているのも文献学をこえている。


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