上原兼善
琉球は一六〇九年(慶長一四)に薩摩藩の侵攻をうけ、実質的にその支配下に置かれますが、中国との冊封朝貢の関係は認められ、大陸に開かれた口の一つになります。幕府は長崎に、対外交渉の窓口としての都市機能を維持するために貿易を許したように、琉球にも中国からの唐物を輸入し、それを日本市場で換金すること、あるいは中国皇帝への朝貢品を調達することを認めました。そうした琉球口維持のメカニズムを明らかにしようとしたのがこの度の私の研究です。
そのメカニズム自体、収奪構造をともなうもので、内部に琉球と薩摩藩との大きな矛盾をかかえ持つものであったといえます。また、薩摩藩は幕府の貿易統制機関である長崎会所に参入、その機能を攪乱するにいたったという点では、幕府との矛盾を内包するものであったことが指摘できます。
私の研究は、中央からはずれた琉球という周縁の、しかも貿易という地味なテーマを取りあげたものです。そのこともあって出版は難産を極めました。それだけにこうした栄誉ある賞が頂戴できたのはとても感激です。角川文化振興財団に心からお礼を申し上げます。
「琉球貿易史研究の新たな高み」 藤井讓治
受賞作『近世琉球貿易史の研究』は、近世後期における薩摩と琉球、琉球と中国(清)との貿易の実態を、膨大な史料を整理し読み解くことで、明らかにした書であり、そこには近世琉球貿易史研究の新たな高みが提示されている。なかでも、琉球と薩摩間の貿易の構造とその変遷とを、幕藩制市場との繫がりをも含めて、実証的に明らかにした点を高く評価したい。
上原氏による琉球貿易の実態解明は、従来知られていた史料に加え、比較的近年相次いで公開あるいは刊行された琉球王国評定所文書、琉球王家伝来の尚家文書等を駆使することでなされている。これら膨大な史料を、丁寧に読み解き、かつその多くを計数・表化することで、琉球貿易の実態を豊かに示した本書の成果は、極めて貴重である。
本書は、序章・終章も含めて一五章からなるが、序章で、近世初期・中期の琉球貿易を概観し、第一章で琉球王府の財政構造を進貢貿易との関係に注目しつつ示し、第二章では主として中国史料を用いて一八世紀半ばから一九世紀半ば過ぎまでの進貢貿易の輸出入の動向を明らかにし、第四章以降における近世後期の琉球貿易を理解するための前提を提供する。
第四章以下は時系列に従って琉球貿易の実態を、薩摩と琉球の様々な政治交渉を含め、分析している。第四章、第九章〜第十一章、第十三章では、唐物貿易を国内市場に繫ぐ長崎商法のそれぞれの段階での実態、そしてその変遷を明らかにしている。第七章、第十二章、終章では、琉球船に乗り込む船員である渡唐役者の、天保期、産物方体制期、王国末期の実態とその変化とが分析される。第八章では、薩摩船による抜荷と日本国内における琉球唐物交易の様相が取り上げられている。
本書は、琉球貿易史研究の新たな礎を築き上げたものとして高く評価されるとともに、これまでの琉球史研究にも大きな刺激を与えるであろう。