角川源義賞

第43回 受賞のことば・選評公開
  • 2022.01.12更新
    第43回 受賞のことば・選評公開
角川源義賞とは 受賞者一覧

受賞のことば・選評

第4回角川源義賞 国史学受賞
『農の田遊びの研究』[上巻・下巻](明治書院刊)
新井恒易
【受賞者略歴】
新井恒易(あらい つねやす)
1912年12月、埼玉県生まれ。民俗学者、教育評論家。日本文化中央連盟、日本教育新聞社に在職。『日本教育年鑑』刊行委員会委員、まつり文化史の会会長。著書に、『日本の祭と芸能』(吉川弘文館)、『中世芸能の研究――呪師・田楽・猿楽』(新読書社)、『続 中世芸能の研究――田楽を中心として』(新読書社)、『能の研究――古猿楽の翁と能の伝承』(新読書社)など。

受賞作内容

『農と田遊びの研究』上巻・下巻

 在野の研究者のライフワークである。『中世芸能の研究』『続中世芸能の研究』で主に田楽を扱い、本書で田遊び研究に結着をつけることになった。上巻七九三頁、下巻八〇六頁。田遊びの伝承は地域的にむらがあるが三二八例あり、現存のものは約二○○。本書には、廃絶したものを含め一三四地点での例をあげている。I「伝承編」では、全国を⑴奥羽、⑵関東、⑶東海・東山道、⑷北陸道、⑸近畿、⑹中国・四国、⑺九州に七区分し、区分ごとに地域を概観したのち各事例が詳細に記述され、その資料的性格は本書の特色である。Ⅱ「総括編―田遊びの展開過程」は、この豊富な事例をもとに、「農耕儀礼と田遊び」「社会経済史と田遊び」「芸能史と田遊び」「田遊びの歌謡」の四章から成る。田遊びは農耕儀礼に胚胎し、特に墾り初めの儀礼を前提として、中世に芸能として形成される。その背景と基盤は、一般の寺院および神宮寺の修正会にあった。さらに猿楽狂言式の田遊びが創作され、一方で千秋万歳の田遊びの展開もあった。芸能として成立した田遊びは、荘園体制を前提にした勧農的な意味あいを持ち、近畿地方から広く地方に流伝し、受容された。田遊びは農業史・農民史、さらに宗教史や文学・芸能史にとっても豊富な材料を提供しており、また祭りと芸能の関係を考えるには最も適した材料ともいえる。田遊びの情緒は、現在から未来への情緒であり、生活にとって必須の生産活動の開始にあたって、その結果に対する熾烈な願望、欲求に根ざした情緒である。


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