谷山 茂
『新古今集とその歌人』は、第一章「和歌史における新古今集」、第二章「新古今作品論」、第三章「新古今の歌人」(新古今の主要歌人二十五名に対して、高風・寂風・艶風の三座標からの吟味をこころみる)、第四章「新古今作家論」(西行・慈円・定家・家隆等の各論)の各章から成る。各章の各稿ともにそれぞれ多少の期するところはあり、努力もしたつもりであるが、このたび角川源義賞の対象に選ばれたことは望外のよろこびである。
『新古今集とその歌人』吉川泰雄
書名のような領域でつとに最高の研究者と認められている著者の、昭和二十年代このかたの論考を編む。著者は、和歌作品・歌合判詞・歌論書・古記録を扱って理解鋭く深く、ほかの資料を援くことも極めて博い。領域空前の精度をなす研究は、従って長く新鮮であり、後学を誘掖して巳まず、なおも世に問われる著者の意も忖度される。
第一章「和歌史における新古今集」で巻頭の「千載集から新古今集へ」は、両撰集間の歌風の推移を、歌材の一斑ながら著しい、「朽ちた袖の涙」から「白露」への表現の差において指摘する。次の「新古今的妖艶美と平家一門の栄華」は、新興貴族の生んだ雰囲気が和歌の新風を醸すに力あったとする。第二章「新古今作品論」は、その「歌枕」「自然観」、「万葉・古今・新古今の比較の一方法」(一撰集としての集団性の認識)、「家持の歌と新古今集」、「春の哀傷歌」(著者の鋭く確かな鑑賞に文献検証が適う)、「寿本新古今和歌集」」(歌頭撰者名注本)を収める。第三章「新古今の歌人」は、「三体和歌」に準じつつ新古今歌人(一〇首以上入集の二五人)を論ずる。第四章「新古今作家論」は、「西行の人と歌」「慈円の世界における西行の投影」「定家と家隆」、「定家」(明月記の達読。某日日の歌人・世俗者としての心理にも及んでいる)に、いさぎよい書評「石田吉貞著『藤原定家の研究』」を付する。谷山博士の「著作集」中の一冊ながら敢えて選定された。