角川源義賞

第43回 受賞のことば・選評公開
  • 2022.01.12更新
    第43回 受賞のことば・選評公開
角川源義賞とは 受賞者一覧

受賞のことば・選評

第8回角川源義賞 国史学受賞
『阿蘭陀通詞の研究』(吉川弘文館刊)
片桐一男
【受賞者略歴】
片桐一男(かたぎり かずお)
1934年、新潟県生まれ。法政大学大学院人文科学研究科日本史学専攻博士課程修了。文部省職員、青山学院文学部助教授を経て、同教授。文学博士。著書に、『杉田玄白』(吉川弘文館)、『鎖国時代対外応接関係史料』『年番阿蘭陀通詞史料』(校訂、近藤出版社)、『和蘭風説書集成』上・下(共編、吉川弘文館)、『洋学史事典』(共編、雄松堂出版)など。

受賞のことば

片桐一男

 鎖国・禁教下の世にあって、日本人が持ち得た海外情報や世界知識は、外交・貿易交渉の実態はいかなるものであったか。交渉において、阿蘭陀通詞はその主役であったが、ほとんど顧みられなかった。それは、彼らが実務に徹していたため、まとまった史科の遺っていないことに起因しているように思える。永年、日・蘭双方に零細な未刊史料を追ってみた。その結果、長崎はもとより、江戸をはじめとする諸地域に通詞の活躍の場が展開し、蘭学史、洋学史、対外交渉史などを含む近世文化の諸分野に、深くかかわっていたことを知り、魅力ある彼らの活躍に惹かれて成ったのが本書である。
 このような基礎的研究に高い評価を頂き、感謝に堪えない。これを励みに、新たな視点を得べく努めたいと思う。

選評

『阿蘭陀通詞の研究』児玉幸多

 近世日本の鎖国時代にヨーロッパ人との外交および貿易はすべて長崎のオランダ商館を中心に行われていたのであるが、その実務にあたっていたのが阿蘭陀通詞であった。この通詞については部分的な研究の論著はあったが、それを主対象に総合的に調査叙述したのは 本書が最初である。
 本書では阿蘭陀通詞の組織を詳細に述べ、通詞目附、大通詞、小通詞から内通詞に至る総数が百数十人に及ぶ通詞らの職階や家系を述べている。次にその基本的職務として、入港蘭船の臨検や貿易品の輸入手続等における通詞の業務、オランダ商館長が提出する海外情勢を記した風説書の翻訳等を記述している。
 次にオランダ人の参府に付添って江戸に上った江戸番通詞や、オランダ人の参府がなかった年代に出府している参府休年出府通詞の業務等を述べ、その間に海外情報やその文化に関心を持つ諸侯や研究者に対してどのような働きをしたかを記している。これは江戸蘭学界への大きな貢献とされる。
 その他、将軍や老中らの輸入注文品にかかわった御内用方通詞や天文台詰通詞など、これまで殆ど知られていなかった部門に対する研究も含まれている。調査は国内の諸資料はもとより、オランダに保存されている多くの文献を利用した、極めて精密なもので、阿蘭陀通詞の全容ならびにその果たした役割が初めて明らかにされたのである。


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