角川源義賞

第43回 受賞のことば・選評公開
  • 2022.01.12更新
    第43回 受賞のことば・選評公開
角川源義賞とは 受賞者一覧

受賞のことば・選評

第9回角川源義賞 国文学受賞
『平安時代古記録の國語學的研究』(東京大学出版会刊)
峰岸 明
【受賞者略歴】
峰岸 明(みねぎし あきら)
1935年、埼玉県生まれ。東京教育大学大学院文学研究科修士課程修了。東洋大学文学部助教授を経て、横浜国立大学教育学部教授。文学博士。著書に、『色葉字類抄研究並びに索引 本文・索引編』(共編、風間書房)、『変体漢文』(東京堂出版)など。

受賞のことば

峰岸 明

 思いがけない受賞、誠に嬉しく、また有難く存じております。未熟で拙い仕事を高く御評価いただき、深く感謝いたします。変体漢文で作成された平安時代の古記録の文章を国語史料として十分に活用したいという願いから、漢字表記語の読法の模索に始まり、記録体の文章の表記・語彙・文体などの諸問題について具体的な事例の検討を通して問題提起を試みたものですが、なお未完成で、研究の布石を行なった程度のものに過ぎません。今般賜わりました賞は、今後への激励のものと自戒いたし、その完成を期したいと存じます。

選評

『平安時代古記錄の國語學的研究』吉川泰雄

 平安時代中期以降、要職者達による変体漢文の私日記が多く記されており、故実的内容をも有してそれぞれの家系に善く伝存された。これら古記録は、字音語を交えつつも、和語すなわち定訓を基調とし、宛字を特殊にまた慣用的に用い、まま仮名書きをも行っている。古記録を善く国語として復原読解しうれば、幸い遺存分でも庬大の量が有り、重要な国語史料として従来の空隙を大いに充たすものである。本文や特に注記部が、直接国語に関する説明的記事を成している例も散見するが、記録体と呼ばれる文体の特質、一般語と記録語とを抱える用語の実態を究明することに重大な意義が懸ってくる。
 著者は、古記録ならびにその周辺に位置する諸態の資料について頗る該博詳密、かつ的確な知見を具えられ、古記録読解の研究に挑み、資料の実態に即して研究法を考案し、その作業を進められたもので、記述は首肯せられるものに充ちている。漢字定訓の判定については、自家薬籠中の色葉字類抄辞字・類聚名義抄が活用されている。著者は、なおも今後の研究に俟たれる諸問題を列挙しておられるが、古記録の読解、古記録內外の国語史上の諸問題についての、かくも広範にして行き届いた研究は、本書以前には無かった。本書の一部をなし、記録語文との比較に堪える漢字仮名交り文、和漢混交文等の研究も優れているが、平安時代古記録に即した国語学的研究の部分は、国語国文学者、国史学者の渇を医すものである。


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