田中圭一
江戸時代の初期、佐渡金銀山は世界の注目を集め、かつ幕府財政に重い位置をしめた。私は金銀山の経営、そこにとり入れられた技術、物資流通の展開をさぐりながら、金銀山を幕府経済政策の客体としてではなく、その主因としてとらえなおしたいと思った。また、金銀山と島社会のかかわりを有機的にとらえなおすことをも一つの課題とした。このたびの受賞を機に、そうした視角、方法論によって更に個別の問題にとりくんでいきたいと考えている。
『佐渡金銀山の史的研究』児玉幸多
佐渡金銀山が近世初頭において極めて豊富な産出をみて、それが江戸幕府財政に寄与するところ多大であり、全国的な統一貨幣制度の確立にも大きな影響を与えたことはよく知られている。それについての研究も、すでに麓三郎氏の『佐渡金銀山史話』や小葉田淳氏の『日本鉱山史の研究』などがあるが、本著者は多年にわたって史資料の蒐集に努められ、佐渡金銀山の生きた姿を具体的に描き出された。
すなわち、幕府の直轄経営となり、あるいは請負制となるなどの変化による稼行仕法の相違などを論ずるとともに、西洋技術の導入などによる影響も考察して、多角的な分析に努めている。時代的には最も盛行をみた慶長・元和期を中心に、十七世紀前半に最も力を注がれているが、その後についても、元禄期の荻原重秀の経営刷新や、田沼期また寛政期以降の、幕府財政との関連が採り上げられている。
しかし、この書の特色の一つは、鉱山町相川の商業機構、木炭供給源と近隣農村との関係、鉱山の大工・金穿り・水替人夫などの労働者の生態などにも詳しく触れていることであろう。それによって佐渡金銀山の生きた姿が明らかにされたと言える。
なお、著者が高等学校教諭という激務の傍ら、この大著を完成されたことも大きな意義を持つ事柄である。