城山三郎賞

第8回 受賞のことば・選評公開
  • 2022.01.12更新
    第8回 受賞のことば・選評公開
城山三郎賞とは 受賞者一覧

受賞のことば・選評

第4回城山三郎賞
該当作なし

選評

「こんな結果になった理由」 斎藤美奈子

 城山三郎賞第四回目にして、「該当作なし」という残念な結果になりました。
 大崎善生『いつかの夏―名古屋闇サイト殺人事件』は、二〇〇七年、名古屋市内に住む三一歳の女性が三人の男によって殺害された事件を追ったノンフィクションです。被害者の遺族に寄り添って丁寧に書かれた本ですが、加害者側への取材が十分とはいえず、最後は死刑礼賛論で終わってしまう。永山基準に異を唱える問題作にしては情緒的で、著者の執筆動機が不明な点も気になります。結果、授賞には至りませんでした。
 梶山三郎『トヨトミの野望―小説・巨大自動車企業』は、日本最大の自動車メーカーを舞台に、主として人事のゴタゴタを描いた実録小説です。内部事情を知っていればおもしろいという意見も出ましたが、概して人物の掘り下げは浅く、経済小説としても中途半端。著者は匿名ですが、匿名で書く必要があったかどうかも疑問です。
 牧久『昭和解体―国鉄分割・民営化30 年目の真実』は、一九八七年の国鉄分割・民営化へ向けて、戦後の政治家、官僚、労組の幹部などがどう動いたかを描いた力作です。戦後史の一断面としては興味深い半面、今日このテーマを書くならば、JR福知山線脱線事故(二〇〇五年)に代表される国鉄解体の負の側面への批判的視点が欠かせないでしょう。一方的な立場からの国鉄解体論であると結論せざるを得ませんでした。
 唯一、最後まで検討されたのが、加藤直樹『謀叛の児―宮崎滔天の「世界革命」』です。孫文を匿った宮崎滔天の生涯と思想を追ったノンフィクションで、期待は大でした。が、幸徳秋水や北一輝ら同時代人との比較論もなく、滔天の人物像が浮かび上がるところまでは達していない。執筆の志に筆が追いついていないように思われます。
 創設以来、城山三郎賞はどんな賞であるべきか、毎回、試行錯誤しながら進めてきましたが、あらためて賞の性格を考える選考会となりました。ひとりがどれか一冊を強く推すということもなく、ほぼ満場一致で出た結論です。今回の大きな反省点は、候補作選びの段階でのシステムを強化する必要性です。次回はぜひ、これぞという一冊を選べるよう、心して準備を進めたいと考えています。


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