大野林火
このたびの蛇笏賞受賞については俳壇諸先輩や友人への感謝の念でいつぱいである。すべてが感謝の二字に尽きる。
私はさきごろ自選自解句集の中で、「還暦過ぎた私に残された歳月は、短いにちがいないが、それでも未来は未来だ。十年・十五年、二十年――いずれにしてもそれは私自身で埋めねばならぬ歳月だ。好きで入つた俳句の世界であるが、さして花も咲かせず、ただ好きですごした歳月だ。しかし、それに総決算を与えねばならぬのが残された歳月ということになろうか」と書き、また「情に溺れやすく、美に耽りやすいのが私の欠点であるが、私が私を生かすのもそれを離れてはないようである。いまは欠点を長所とすべくさらにおおらかさを加えたく思つている」と書いた。
このことはいまも変わらぬ。一本の道は続くだけである。
顧みてここ三年間に私は『近代俳句の鑑賞と批評』、自選自解『大野林火句集』『潺潺集』を上梓した。これは私の出来るせいいつぱいの仕事であつたが、また貯蓄を皆払い出したと同じ思いである。その意味ではこのたびの受賞が私に新しい貯蓄欲を駆り立ててくれそうで嬉しい。