加藤克巳
第四回迢空賞のおしらせをきき、びっくりすると共に、大変有難く嬉しいことと思った。
私は早く国文学、特に古典を専攻し、私なりに伝統の美しさ、重さというものを知った。そしてそれがあまりにも美事なるが故に、作歌の上でがんじがらめになることをおそれた。私は爾来無謀にも反逆をこころざし、新しい短歌を作ろう、短歌を新しくしようと励んだ。しかし一部はひとに認められてもその多くは世にいれられず、ときには異端の徒のそしりをきいたことさえあった。
ところで、私は定型を離れなかった。私はいつの時も伝統を強く意識して来た。反逆するということは、伝統に挑むことであり、同時に新しいものを創り出すことであった。ややもすると伝統の重さ、美しさにまけそうになる、とその都度激しく自らに鞭うち、鞭うちつつ挑みつづけた。
たたいてもたたいてもこわれないもの、破って破ってもやぶれないものを核として、新しい私の短歌を創ろうと長い模索を続けた。『球体』はそういった私の愚直ともいえるであろう仕事のひとつとして、幾らか私なりの世界を、私なりのリズムを作り得たのだろうか、とひそかに思いながら、次の展開、次の探求に心が向いていた矢先、今回の受賞となったわけで、まさに過分というほかなく、びっくりしたというのもそこら辺にあったのである。世の評価を広く得るなど思いもよらぬ私の宿命的営為に、しかし、この度先進、知己の多くの御推挙をいただいた事実にたいし、ただただ有難く厚く御礼申上げねばならぬと思っている。
性こりもなくよくやって来た。もっと勇気を出してやりたいことを更にしっかりやれ、と励まされているのだ、と私は思う。
伝統と革新、伝統と創造ということをいま謙虚に、深く考えている。私はこれを機会にさらによい仕事に励んで受賞にむくいたいと思っている。