葛原妙子
このたび、私の歌集『朱靈』に第五回迢空賞を下さる旨をうかがいました。
歌集『朱靈』の後記にも書きましたように、私は、歌とはもっともっと美しくあるべきだと信じている者です。従って自分の歌についてはつねに不満です。作歌に当たっては少なからず苦しむ方ですが、いまもってこの美しい詩型を自在に出来ないいらだちに会います。思うことがありながら手が間に合わない苦痛、とでもいいかえたらよいでしょうか。
そのような私に賞を下さるということ、私はこの賞が決定される経過をくわしくは存じませんが、「お前の歌をもう少し信じなさい」とうしろからあたたかい手でたたかれた感じです。どなたの手であるかを存じませんが、おそらくたくさんの手を代表するものなのでしょう。歌に対しては宿命的に一図の作者である私を、この辺で力をつけてやらねば、という親心もあってのことと思います。有難いことです。
以上の感想のもとに私はこの賞をお受けいたします。好意に充ちた先進有識の、知己の、励ましの意味としていただきます。
ここでまた思うことは、いままでにどのように多くを歌い残しているかということです。更にこののち歌うべきことは日々新しく発生する事でありましょう。しかし事実を歌い尽すことだけに歌の真の面目が置かれてはならない、と同時に事実から全く断絶した歌はありうるだろうか、この至極当然な、しかも困難な作家の問題に悩みます。しかもその上で、私の歌は最も私らしく「真実」であることを希う者です。
この度の受賞にお力添えをいただいた方々にお礼を申しあげると共に、今後も私の作品に厳しくお臨み下さることを念じます。