右城暮石
外出先から家に帰ると、待ちかねていた家人が、東京から「蛇笏賞」受賞の電話があつたと息を弾ませて言つた。一瞬私は呆然と立ちつくしながら〈弱つたなあ〉と独り言のように答えた。
私の反応には、いつもこんなところがある。うれしいとか、有難いとかが、素直な言葉とならないのである。
うれしくないどころか、うれしさを通り越しての〈弱つたなあ〉なのである。思つても見なかつたことが、ぽつかり眼の前に現われた戸惑いに加えて、賞の重みが頭の中をかすめたからである。
考えて見ると、賞の重荷を一刻も早く払いのけて、自由に句を作るのが、賞に酬いる第一ではあるまいか。白紙、手ぶらの平常心以外に、私の歩く道がありそうには思われない。
よき師、よき先輩、よき友人に恵まれたことを、この機会に改めて感謝したい。