前川佐美雄
迢空賞をいただいた。ありがたいことだと感謝している。思ってもみなかったこととて、すくなからずとまどった。もっと若い人にあげてほしいと、いっぱしは辞退したけれど、非礼である。思いなおしてお受けした。そして心ははればれしている。私は迢空先生に、ありがとうございました、とお礼を申し上げたのである。すると、あなたようお受け下さいましたね、とにやにやなされた。いえいえ、どう致しまして、このように感謝しておりますと掌を合わせると、朦朧と姿をおかくしになった。私の手には迢空賞があった。歌界の人びとにも、感謝する次第である。
昭和四十七年五月朔日