香川 進
釈迢空賞と前田夕暮賞とは、もともと、わたくし達の「地中海」にあった。毎年該当者なしで、十年近く過ぎるあいだに、さすが角川源義、人を派してじゅうくんな挨拶をして『短歌』にもってきた。わたくしはそこに迢空門下の人生に対する態度を深くみた。もうひとつの前田夕暮賞は「詩歌」の方にいった。
このたびの、つたない歌集『甲虫村落』については、まことにわたくしの心を洗うような批評を、常々わたくしの作品を罵倒する友人からもいただいて、そんなものかなあ、と心暖まる思いであった。就中、深作光貞からの手紙は、示唆するものがあった。
「香川の歌、外国、このアメリカにいて読むと、はじめて生活感情にぴたりときます。」
光貞はやはり万葉集、または万葉集以前しか歌の世界性を持っていないと思っているのではなかろうか。
岡野弘彦と共に迢空賞をいただけるのも嬉しい。独立した弘彦のこれからの人生の態度と歌とに迢空のそれがこれからは、深く響をもってくることだろう。
わたくしも、これからだと思っている。