松村蒼石
角川書店より、「蛇笏賞」に決定のおしらせを受けた。この賞が吾々雲母人の先師である蛇笏の名を擁しているところから、近くして近づきがたい大いなる重みを感じつつ、従来受賞された先輩諸氏の像を、羨望を以て遠く眺めていたものである。従つて、今回雲母人の私がお受けすることになつたのは、真に感銘深いものがある。
蛇笏師より二歳下であつた私が、いま師没後十二年の経過に依り、師より既に十歳の年上にまで生きのびながら、蛇笏に近づかんとしても、師が生前の足下にさえ遥かに近づき得ないまま徒らに馬齢を重ね、未だに龍太先生の庇護の元にあることを以て喜びとし、老木に花を咲かせ続けようとするこの際の受賞は量り知れないものがある。
私は雲母二代に陟り師事し得たことの意識を、今日改めて嚙みしめつつ、この選考に関与された諸氏に厚く御礼申し上げる次第である。