田谷 鋭
日本歌人クラブ賞授賞の報らせの数日あとでしたので、授賞のお報らせに、瞬間、とまどいを、次いで面映ゆいような喜びの感情を覚えました。
しばらく経って、支持して下さった方々の知らない顔々を胸の中に思い浮かべたのは年齢というものでしょう。むかしのわたしは、もっと、自分自身の喜びだけを喜んでいたように思い返します。
また、そうしたことに続いて、尊敬する折口先生のゆかりの賞をいただいた、という感慨も湧きました。北原白秋・宮柊二のお二人の師を通して、遠い前途を照らす光のように感じ続けていた先生に、いま、近づく手懸りが与えられたような、例えばそんな感じの感慨でした。
直接、宮柊二氏のお教えを頂くようになって、今年で二十六年目かと思います。懸命に生活や周辺をうたった、この二十余年は、わたしにとってある意味で喜びに満ちた歳月でした。そうした中で、さいきん新しい一つの感情を覚えはじめています。
虚白とか暗黒とか言ったら誤解されるように思いますが、ややそれに近い感情です。思うに、生活周辺を一種の媒体としてうたってきたわたしの態度が作品自体に批判されてきているのではないでしょうか。あたらしい師の教えを省みる時期がきているように思います。 別の言い方をすれば、わたしはあらたな出発点に立っているように思われるのです。賞を契機に励みたいと考えています。