「芋の露」 山口草堂
月並な言い方をしますと、小生は世捨人の侘住まいと云つた生活を永く続けておりますが、是が小生に最も相応しい在り方で陋屋での乏しい単調な毎日に甘んじております。
其処へ突然華やいだ通知が舞い込んで来て驚かされました。併し秋櫻子先生始め知友の方達からお祝いの詞を頂いて有難い思いをしております。自分でも素直に喜びたいと思いながら、何だか間違つて褒められているような後ろめたさと言つた感じもして落ち着かない気持です。そして又改めて自分がよい先生や知友達に恵まれて今日に至つている幸福を忝く思つています。小生の外道俳句に身を挺して題材になつて呉れた生き物達にも感謝したいと思います。
併し今最も心配している事は、もう何年も行つた事の無い東京へ行つて、その上煌やかな場所に立たなければならない事です。常に消極的で取越苦労の多い小生には是が何よりも頭痛の種です。
蛇笏先生に就いては小生は「秋の風鈴」の句や「芋の露」の句で、その句のように堅確で又厳格な方と承知していますが、余り多くの事を知らない儘で過ぎて来た事を申訳なく思います。是からその俳句や文章の作品を段々読んで勉強してゆきたいと考えております。そして賞を戴いた意義に出来るだけ添うように力めたいと思います。